2013年1月28日月曜日

[映画] さよならドビュッシー

2013年1月27日(日)21:20のレイトショーで見てきました。
ネタバレあります。




















「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
原作は宝島社の「このミステリーがすごい!」大賞を取った作品。読んでいましたがミステリーとしては2点弱い部分がありあまり評価せず。1点は探偵役がほとんど機能しない添え物である点。あと1点は冒頭に重要な出来事が起きたにも関わらずヒントが充分だったか怪しい事。これはその後も伏せられた状態で話が進むのですが、最後明らかになった瞬間に一瞬なるほどと思いつつも感情移入していた先を失うために不満に変わる。
クラシック音楽を取り上げているにしてはさほど深みもなく「のだめ」でブレイクしたクラシック音楽フィーチャーものという認識。

クラシック音楽映画として
本作については原作の弱点について意識はされていたように見えます。
音楽については探偵役のピアニスト兼ヒロインのピアノ教師岬洋介役として清塚信也を起用。映画のピアニスト役俳優の代わりに実際の演奏をされている方。ヒロインのピアノ教師として家に行った日の演奏は見事。演技は本人が素でやっているように見えるタイプの方なので合っていたのではないでしょうか。
「熊蜂の飛行」でリハビリさせるという流れは良かったのですが、橋本愛扮するヒロインが病院で演奏してみせた際、いつのまにかパーカッションや弦楽が入って来たのはピアノの力を甘く見ているように見え、この後の展開に危惧。
これは案の定で最後のコンテスト本選でのドビュッシー「月の光」演奏で弦楽がいつの間にか入って来てしまったのは残念でした。本作の製作陣、ピアノやクラシックのコンサートを聞かれた事はないのかなと。あの方法でしか観客の集中力を保てないのだとしたら、ピアノのコンサートなんてとっくに無くなっていると思うのですが。
最後のシーンでの演奏。映像をよく見ていると本人が弾いているようには見えない。エンドロールで清塚氏とあとお一方(女性)が実際の演奏をしていたとクレジット。
こういったシーンで本人が演奏出来るかどうかは音楽映画としては重要なポイント。本作はその点が満たされておらず、それ故か舞台上に亡くなった人たちが見守るというシーンが入って来てしまう。この点は橋下愛の演技でカバー出来たのではないか。(視点等)
このあたりは実際に演奏しないピアノという要素故に演出に制限があったように見えた。

ミステリーとして
小説と違い観客が作中出演者の視点で見る事はありませんので原作のミステリー部分の中核は維持出来ます。ただそのミステリーシーンも謎解きで岬洋介が語る証拠についてそんなに分かるようにクローズアップされたシーンがあったのか思い出せず。
あったのだとすればそれで良いのですが、なかったとすればミステリー映画としては傷だと思う。
とはいっても岬洋介の探偵ぶりはその程度。作品構造上積極的な探索出来る展開ではないのでそもそも探偵役、ミステリー要素がなくても描けた作品だったのではないか疑惑は解けない。
あと母親が怪我する直前の態度も納得出来ないですね。ヒロインを追い込んだのは誰かという事を考えると、母親だった訳であのような態度にすぐ出るとは思えません。このあたり、原作においてミステリーとして手間はかかるがお手軽な展開を選んだ影響が残っているように見えます。

カメラワーク
鏡や鏡面状になっているものを活かしたカメラワークは良かったのですが、じっくり映すという事が少なく短く視点を変えて行く編集になっていたのが残念。
最後の演奏シーンでピアノの周囲を回りながら撮影する手法がとられてましたが、早過ぎて見守る人たちをじっくり捉えるという事は出来ておらず。
あと他のシーンだったと思うのですがフォーカスが一瞬外れたカットが含まれてました。絞りを開いてボケ味を出そうする事が多くその影響で発生したのだと思いますが、こういう細かなミスの存在は惜しいです。

橋本愛の演技力が支えた映画
単なる美人ではない事を証明したかなと。ただ折角やった役が違っていたというのはヒロインを見る目が変わってしまい、その点が気持ち悪さに直結。これは原作由来かつ作品の中核に位置するテーマなのでどうしようもない事ですが惜しい。
あと俳優陣の演技が今ひとつ。刑事だけ見事な嫌われ者かつ無能ぶりを描いていて面白かったですが、他の人たちは棒読みな印象でした。

ということで橋本愛の女優としての演技力に興味がある方にお勧めの一作です。