2013年2月19日火曜日

[映画] ゼロ・ダーク・サーティ

2013年2月16日(土)、23日(土)の2回に見ました。
タイトルの意味は「0時30分」ビンラディン襲撃作戦をドキュメンタリックに描いた映画です。キャスリン・ビグロー監督作品。
※ネタバレあります。(まあ、何がネタバレなのかという話なんですが。。。)



UBL専従CIA分析官マヤ
高校卒でリクルートされたCIA分析官がひたすらビンラディンを捕捉する為に全力を尽くすというのが基本骨格。
冒頭、2001年9月11日の様々な通信録音を再生して何が起きたかを示す。
おそらくヒロインであるマヤの動機の一つがあると思われるのだが、その点をはっきりとは描かない。この部分、字幕が邪魔。しかし、なければ何が起きたか分からない。吹替が通じるシーンでもない。つくづく英語が分からないのが残念。

底が見えない10年間の戦い
最初に映るシーンはパキスタン某所の「BLACK SITE」(この後、他の国でも登場。CIAが海外に有する米国法に依らない拘束者への尋問を行っている場所を指す)での尋問。水タオル、箱、ロープでぶら下げたまま放置といった拷問テクニックが披露される。
CIA分析官の使命としてはビンラディンの所在を突き止める事と並行して今行われようとしているテロの阻止も含まれる。最初の尋問はその阻止に失敗したもののマヤのトリックで見事に口を割るという事で情報取りに成功する……という出だし。
拷問シーンのえぐさ(それでも映画で紹介されたテクニックは手加減しているように見える)とマヤの頭脳の冴えが示されるシーンと言える。

マヤが行う分析は地味。ひたすら尋問調書を読み、気になれば尋問録画DVDに当たって確認を行い、時には現地に飛んで拘束されている人物を直接尋問する。自分の顔が覚えられないようにカツラを付けて安全を確保するのは分析官でも決して安全な立場にいる訳ではない事を示す。ファミリーネームが明らかにされないのもこういった点を意識させるための意図的演出に思える。
そのような日々の中、外で同僚と気晴らしに食事をすれば爆弾テロに遭遇し(このシーンの迫力は凄まじい。これは単に音が大きいだけではない「爆発音」が上手い)、同僚の一人は重要な参考人の釣り上げに成功したと思った瞬間に自爆テロで死亡。
そのような事態の中で、マヤは外で食事をと誘われると危険だからと断り、そして実際に出勤で車をゲートから出したところでアサルトライフルで車を蜂の巣にされかかるといった目に遭う。

それでも諦めず上司に嫌がられながらも粘り強く人と予算の追加要求をし続け、更に上司が更迭された後の後任に「マヤには逆らうなと言われたよ」とまで言われてしまう四面楚歌の状況の中、ビンラディンにつながる連絡員らしき人物の特定に成功。その人物が母親に掛ける電話を手がかりにようやく潜伏先とおぼしき邸宅を突き止める。
テロシーン以外はひたすら地道な描写の積み上げであり、アンチクライマックスな作りは明らか。

ZDTが描く二つの正義
本作のテーマは二つの正義にあるように思える。一つはテロ組織の撲滅とテロ行為の未然の防止であり、もう一つが9・11に対する復讐という名の正義。
これはテロ阻止を重視する上司とあくまでもUBLを狙うべきだと主張するマヤの衝突で表現されている。また別のシーンでマヤがパネッタCIA長官に「UBL以外の業績は?」といった意の事を聞かれて「ありません」と答えるマヤのキャリアの特異性、そして何が何でもUBLを仕留める意思は復讐という名の正義の化身のようにしか見えない。


ZDTはプロパガンダ映画か?
本作はアメリカから見たビンラディン急襲作戦を描いた映画です。アメリカ万歳映画と評する人がおられますが、それは違うかなと。
例えば拷問。アメリカの司法制度では拷問は非合法。それをアメリカ国外の基地や法律が緩い友好国に移送してアメリカ国外だから合法という論理で拷問を行う。
宗教が絡む瞬間もあった。作戦成功の通信の中で米軍兵士は「神のおかげで」といった言葉を使っている。この一言でこの作戦の意義の一つである9・11に対する正義の履行に対してキリスト教観点での正義という別の正義が重ねられている事が明示される。
アメリカ万歳映画であれば、この部分は触れないか、触れるのであればもっと大々的に織り込んで来たのではないか。

9・11はアメリカにおいて失態でありようやく一つの終止符を打てたに過ぎない。そしてこの終止符も単なるマイルストーンに過ぎない。そのような事件を今映画化するのは大変リスキーな話であり、単なるアメリカ万歳、礼賛映画と評するのはビグロー監督に対する誹謗ではないか。

"Where do you want to go ?" - アメリカを包む暗がり
「ハートロッカー」はイラクに駐留する米軍兵士の視点で描いた反戦がテーマだった。
「ゼロ・ダーク・サーティ」は米国がアルカイダとビンラディンと対峙した未だ歴史とは言えない現在進行形の事件の一つの終止符について描いている。この事はC-130に乗ったマヤへの「どこへ行くの?」というC-130搭乗員の問いかけ、これはアメリカがどこへ行くのかというビグロー監督の問いかけでもある。
映画タイトル"ZERO DARK THIRTY"からして深夜の0時30分。漆黒の闇を連想するもの。この言葉自体、2001年9月11日から始まるアメリカの状況を表した言葉に思えてならない。

2月23日追記 2回目を見ての感想です。
・映画の構成は Saudi group/Meeting/Human error/Tradecraft(?)/Canariesの5部構成。今更ですが、ブッシュ政権の動きはSaudi groupだけだったというのは驚き。
・支局長更迭の情報リークを仕掛けたのは誰か。支局長はマヤから「パキスタンがリーク」と話しかけられますが無視。このあたりを見ると支局長の主観ではマヤがやった事と受け取っているらしい事が分かる。
・マヤは高卒でリクルートされて2011年時点では奉職12年という事なので、911以前からCIAに採用されていた。その際に関わったのがCIA職員で礼拝を欠かさないイスラム教徒であるウルフ。ただ彼がどう関わっていたのかは作中では明らかにされない。
・UBL襲撃で射殺成功について「For God and country,I pass Geronimo」との無線通信が行われるシーンがあります。(Twitter上にてCRSVDVさんに教えて頂きましたがSEALsの指揮官が実際に行った音声通信が元との事)
1回目はキリスト教が根底にあると思ったのですが、他の宗教でも概ね神は存在するので一般的な意味で言っていた可能性はあるかもしれない。
・最後のシーン。C-130に搭乗するとパイロットが「マヤとしか聞いていない。」というシーンがあります。マヤのファミリーネームは終始一貫して明らかにされず終わっていて、マヤにモデルとなったCIA職員が実在するのかどうかについては直接的なモデルは存在せず複数人のモデルからストーリーを作ったという流れで姓を入れなかったのではないかと思わされた。