2017年7月18日火曜日

映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」

おぼえてますとも。封切り時に映画館で見ました。1984年7月だったそうなのでかれこれ33年ですか。

もうこんな昔の映画とTV版の話なのでネタバレありで書きます。


元はTV版ですが、旧作カットの使い回しはないはず。音楽は羽田健太郎氏がTV版に引き続き担当。オーソドックスかつ見事な管弦楽が響く中、アイドル歌手リン・ミンメイの歌が流れていく。リン・ミンメイ楽曲はTV版転用が何曲かあり中盤の土星の輪の中を飛ぶ複座型ヴァルキリーの機内で彼女が歌ってみせたり、早瀬少佐と一条中尉がマクロスに戻ってきた時、街中を彼女の歌が聞こえてくるなどして短い尺(2時間ありません)の映画にTV版の良い要素を持ち込んで世界観を広げていた。

TVアニメ版

TV版はアイドル歌手、軍の女性管制官と戦闘機パイロットの三角関係、文化を失っている異星人、避難民たちが艦内に町を築いている上に人型に変形する宇宙戦艦(要塞という名称ですが)などこれでもかというぐらい設定を入れてきていて毎週日曜日楽しみに見ていた。まさか、アイドル歌手と戦闘機パイロットの恋物語ではなく、本命は女性管制官になるという意外な展開を入れつつ、地球軌道上の決戦に話は流れ込んでいく。

TV版では一条輝は生きて還ってくる才能に長けた戦闘機パイロットであって、空戦技能に最も優れたパイロットとしては描かれていない。そういう天才はマックスであり、フォッカー少佐であったりした。まして決戦兵器の搭乗員だったりはしない。
だから地球の引力圏につかまった時、そのまま大気圏再突入して地表へ降りて行き未沙を救いに駆けつける選択を躊躇せず選んでいる。
未沙が輝が来てくれると何処かで思っていたといい、輝が「(未沙に来るなと言われたのに)そんな命令まもった事なかったですね」というのは二人ともよく分かっている。(それはこれまでに2回も起きていた事でもあった)

今からすればここで終わっていたら良かったのでは?と思わないでもないのですが、放映はこの後もう1クール延長されて戦後の地球が描かれる事になった。恋愛パートの決着がついていたと思ったら急に延長されたためかそうはならず、地球と異星人との復興と混乱、武装蜂起の中で三角関係も泥沼化、最後に人類全滅を免れるための移民計画の一番艦の艦長に未沙が指名され、輝が同じ価値観(人々を、文化を守る軍人としての使命感)を持つに到った未沙を選ぶ事で三角関係も決着を見て物語を閉じられた。それはミンメイが輝を軍入隊へと後押ししたこの物語世界での最終的な旅路の果ての輝自身の決意でもあった。


映画版

映画版はTV版を元にしているが設定もストーリーも大きく変更されている。ただ、その展開の中で端々にTV版の影響が多々残っている。その事が映画版の世界観を広げ作品内に収まらないようになっている要因なのだと思う。

プロップ類は今でも通用するデザインになっている。タブレット型端末、落ちているカンを見つけると捨てに行く清掃ロボット。さすがに管制官三人娘がカフェで雑談しているシーンで出てくる雑誌の掲載ビデオが動くというのは実現してないですが。今ならタブレットで見ている描写になるんだろうか。
ファッションはアニメだから気にならないんだと思いますが、80年代の影響の方が強い。見る度に未沙にもう少しいい私服を!とは思ってしまう。

展開は早い。タイタン付近を航行中のマクロスの戦闘とその後の顛末、スキャンダルになったミンメイを宇宙へと連れ出す一条少尉。そしてそれを追ってきた早瀬大尉らと個人的に救助依頼を受けて飛んできたフォッカー少佐が異星人艦に捕まり、早瀬大尉と一条少尉だけがフォールドしようとした艦から脱落して別の場所へと出てしまう。スキャンダルからの展開は一夜の話になっているのは今更ながら驚かされる。
砂漠と水の惑星が地球である事を知り異星人の移民船を発見する中で二人は絶望の中の敵対から相互理解、恋愛関係へと関係が変わっていく。
マクロスに戻った二人、一条中尉は再びバルキリーに乗って要撃戦闘に出撃する。そんな中、異星人に囚われていたミンメイが特使と共にマクロスへ戻ってきて三角関係になるのか?という展開に改めてスポットライトがあたる。

ノベライズ(電子書籍版で復刊されてます)は台詞で輝がどう考えたのか未沙に語っている。映画はシンプルに君にずっと一緒にいて欲しい的な台詞一発に止めていてベスト。(「LA LA LAND」は恋愛ものとしては何気にマクロスと同じ選択をやっている)

輝とミンメイの展望台のシーン、背後の描写が素晴らしい。装甲が吹き飛ばされ地球から発進して宇宙空間を突き進むマクロスとその周囲で繰り広げられている戦闘と並行して輝とミンメイの別れの物語も進んでいく。なんやかんや言ってもTV版エッセンスは到るところにある。そしてTV版では船室の大型窓程度だったシーンは見事な展望公園に仕立てられており映画のスクリーンに映える傑作シーンとなった。

最終決戦。TV版と違いマクロスは地球に降りていた時に攻撃を受けていて主砲は既に失っている。未沙が訳した「愛・おぼえていますか」をぶっつけ本番でブリッジの特設ステージで歌うミンメイに導かれてマクロスは敵の旗艦に突入攻撃を仕掛け、バルキリーでブリッジを護衛していた輝はバルキリーで未沙たちに敬礼して中心部にいるボドルザーへの単機攻撃を敢行した。ここのバランスは微妙なのですが、裏切って先制攻撃を仕掛けたというところで生存競争としての選択だったと考えるしかないか。

TV版では並列していた物語を映画では一本化して輝に止めを刺させる展開に変えている。
起きた出来事自体はいろんな形で映画版でも取り込まれている。
ただ三人の設定は大きく変わった。

リン・ミンメイ:TV版ではたまたま島に来ていて巻き込まれた少女。わがままで輝はふりまわされ、あまつさえ軍の志願を後押しした。そんな中でミス・マクロスとなってアイドル歌手、映画俳優となっていく。
映画版では既にトップアイドルスターの座にいて単独コンサートに映画主演とこなしていて輝はただのファンに過ぎなかった。艦内戦闘で二人が遭難状態になり、一夜のデートの中で敵の捕虜となって道が分れていく。
彼女は輝の事を好きだと思い、そう告白したところがTV版と全く逆転している。TV版よりも大人の性格設定になっている。

早瀬未沙:TV版では輝と喧嘩ばかりしていた。そんな中でも作戦案を出し偵察作戦にも出撃した。カイフンに憧れていたライバー少尉の面影を見ていたが、反戦・反権力のカイフンはけんもほろろの態度。そんな中でミンメイに振り回されるだけだった輝とお互いの事を知るようになっていく。
映画版ではやはり喧嘩は多い。輝もフォッカーの影響か男の方が偉い的な事を口にしている。そんな二人の距離が変わったのは二人だけ別の惑星に出現して1ヶ月の放浪の間の事だった。ほどなく惑星の正体が分かり、意外にも未沙の心が折れた。天涯孤独である輝が未沙を励ましてくれた事に気付き、異星人の移民船でついに二人はお互いを求めた。
映画版の未沙は新しい作戦を提案したりはしない。ただ輝との喧嘩を除けばバルキリー隊の管制を見事にこなすプロフェッショナルである事はきちんと描かれている。そんな未沙にとって輝のコールサインが別の意味を持つようになった事は最後のシーンでよく分かる。

一条輝:TV版ではエアレーサーとして島に飛来。敵襲に巻き込まれてミンメイと知り合いになる。ミンメイの気まぐれさからパイロットの技能を生かせばいいと言われ軍に入隊。未沙と衝突しながらバルキリー飛行隊の小隊長、中隊長となりマックスたちを率いて戦う中で、偵察作戦などでマクロスの外へ出た未沙の危機を救って連れ帰るナイトとなっていき、お互い似たところがある事に気付いていく。
映画版ではミンメイと知り合う時点で少尉任官しているバルキリー隊パイロットだった。未沙とは通信越しに喧嘩する管制官と戦闘機パイロットという関係。そんな未沙と二人で爆撃で壊滅した地球を彷徨う事になる。輝にとって未沙とは軍人の鑑であり融通のきかない人に見えていた。そんな未沙の心が折れた時、大事なはずのハンカチを差し出し語りかけて懸命に彼女を看病しているうちにたった二人の世界で彼女に恋に落ちた。
マクロスへ戻り、マックスが行方不明となった後にフォッカーのコールサイン「スカル1」を継いだ輝。最後の大決戦を目前にして押しかけてきたミンメイの元にさらに未沙がやってくるというTV版戦後編を彷彿とさせる展開が入る。TV版と決定的に違うのは未沙は異星人の船での一夜の事もあって輝を既にパートナーだと認識していた事。
そして輝もマクロスに戻ってきて未沙と二人で外出した時、ミンメイが歌うデジタルサイネージを見て、未沙にずっとそばにいて欲しいと心は決まっていた。

TV版最終話で輝は未沙の気持ちに向き合い、そして未沙はマクロス最後の戦いへと向かい、輝はバルキリーで出撃しようとした。そんな二人の事がミンメイには理解しかねるものがあった。二人とも軍人としての役割、人々と文化を守る役割を担っている事を自覚していてそれぞれ任務を果たすという価値観を共有している。ミンメイに間に入る余地はなかったし、そして輝はミンメイには歌がそれにあたるのだと気付いた。

映画版。敵艦隊機動要塞中枢部への侵攻。輝はブリッジの未沙たちに敬礼して単機でボドルザーに対する最後の攻撃へと向かう。
全てが決した時、輝と未沙との結びつきの強さは輝から未沙への呼びかけ「スカル1よりデルタ1へ。任務完了。これより帰艦します」での二人の表情でよく分かる。この時の交信は二人にとっては愛する相手の生存を確認する意味が生まれていた。


冷戦期世界破滅型物語の傑作

本作の最初の36本のTV版と「愛・おぼえていますか」は冷戦期世界破滅型物語の上で歌が戦いを終わらせるための武器として位置づけられている。そしてその上でベタな三角関係のように見えて実は違う恋愛ストーリーが展開された。ロボット物アニメは戦いがテーマになる事が多い。本作はそこを大きく外してきた。だからTV版では輝はボドルザーを倒したりせず、未沙を救うという選択をする。そして逆にミンメイが人類の絶滅を防ぐためにマクロスで歌う。

映画版はこのTV版のエッセンスを散りばめて再構成している。大きく変わっているようで変わってない。輝がボドルザーへの攻撃に向かうのはTV版最終話での未沙と一緒に街の人達を救うためにそれぞれの任務に向けて駆け出すのと違いはない。そういうプロフェッショナルとしての意識の共有は未沙と輝を結びつけたものなのだから映画版が最後、輝の手によって果たされるのは必然と言える。(とはいえ映画版もTV版も軍律自体がどこか緩いですけどね。映画版じゃ隠密裏に対処しようとして未沙も個人的要請としてフォッカー少佐を呼び出しているし)